ブドウの酸保持と気候条件の関係をさらに掘り下げる

ブドウの酸は、ワインの“背骨”。同じ品種でも産地や気候で酸の量・質は大きく変わります。 本記事では、酸保持のメカニズム気候条件の科学的背景を整理し、 ソムリエ試験・上級者の理解を一段深める視点で解説します。

1. 酸はワインの「骨格」と「寿命」をつくる

酸の種類主な特徴発酵後の残存度
酒石酸ワイン特有。pH安定化・結晶化の要因高く残存
リンゴ酸成熟期に減少。MLFで乳酸へ中(MLFで低下)
クエン酸微量。爽やかさに寄与概ね安定

酸は味の立体感・熟成ポテンシャル・微生物安定性の要。特に冷涼地での酸保持が品質差を生みます。

2. 酸が減るメカニズム——温暖化の影響

  • 夜間呼吸の増加:気温が高いほど果実呼吸が増え、リンゴ酸が消耗
  • 過熟:高温・長日照で糖が上がりすぎ、酸とのバランスが崩れやすい。
  • 実務対応:補酸、収穫前倒し、高地・高緯度への移動など。

3. 冷涼地で酸が保たれる理由

夜温の低さ昼夜の寒暖差が鍵。昼に糖を蓄え、夜に酸を維持できるため、糖と酸の共存が可能になります。

図1:昼夜温度差が大きいほど、夜間呼吸が抑えられ酸保持が進むイメージ
時間(昼→夜→朝) 温度/酸 昼高温 夜も高め→酸消耗↑ 夜温低い→酸保持 酸保持

高地効果:標高が上がるほど夜温が下がり、同時に日射(短波)が強くなるため成熟を進めつつ酸を保持しやすい環境になります。

4. 雨と酸の関係

  • 多雨→果粒の希釈・病害リスク↑ → 酸・風味の密度が下がりやすい。
  • 乾燥→凝縮とフェノール成熟が進み、酸も相対的に維持されやすい。
  • 開花期〜着色期の長雨は光合成・温度条件を乱し、糖酸バランスを崩す要因。
図2:降水が多いと果粒は膨張(希釈)し、酸濃度が下がりやすい
乾燥 高濃度(酸↑) 多雨 膨張→希釈(酸↓)

5. 品種ごとの酸保持力

品種酸保持力備考
リースリング冷涼地でも高酸・長期熟成型
シャルドネ産地差が大きい(例:シャブリ vs 温暖地)
カベルネ・ソーヴィニヨン果皮厚く酸・フェノールの維持がしやすい
シラー高温だと酸が飛びやすい
サンジョヴェーゼ高酸系、丘陵・冷却風のある地区に好適

6. 酸保持のための栽培テクニック

  • キャノピーマネジメント:直射光を適度に遮り果粒温度の上昇を抑える。
  • 収穫時期の最適化:糖が上がりすぎる前に収穫し、酸を残す。
  • 区画選び:北向き斜面・標高差・冷却風の通り道を活用。
図3:標高が上がると日中は十分な日射、夜は低温で酸保持に有利
低地:日中温↑/夜温↑ → 酸減 高地:日射◎/夜温↓ → 酸保持 標高↑

まとめ

  • 酸はワインの寿命と構造を支える基礎要素。
  • 酸保持には夜温・寒暖差・降水・標高・日照角度が重要。
  • 気候変動により酸は減少傾向。産地選定や栽培手法の再設計が進んでいる。

FAQ

Q. 温暖地でも酸を保つ方法は?

A. 標高を上げる、北向き斜面を選ぶ、キャノピーで遮光、収穫を前倒し、適切な補酸を組み合わせます。

Q. 補酸とは何ですか?

A. 醸造中に酒石酸やクエン酸等を添加して味を整える手法。国・地域ごとに法的制限があるため、最新規定を確認してください。


次回予告:「MLF(乳酸発酵)を味と安定性の両面から解剖する」——リンゴ酸→乳酸で何が変わる?

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