樽発酵×バトナージュ:澱が作るクリーミー食感の正体

ワインの熟成工程で、「澱(レーズ/lees)接触」と「樽内撹拌(バトナージュ)」が織りなす“クリーミーな食感”は、単なる風味の変化以上の意味を持ちます。今回は、澱由来の成分、樽の物理化学作用、そしてバトナージュがもたらす構造的変化を、ソムリエ試験対策にも役立つ視点で整理します。


1. 澱(Lees)とは何か?——酵母・葡萄残渣の役割

澱とは、主に発酵終了後に残る酵母細胞・タルト酸塩・葡萄の微細固形分などの沈殿・浮遊物を指します。The Australian Wine Research Institute+2ウィキペディア+2
澱接触(“sur lie”)やそれを活用するバトナージュでは、酵母の自食(自溶/autolysis)によって分解された成分がワインへ移行し、質感・風味を変化させます。ウィキペディア+1

主なメカニズム

  • 酵母細胞壁から放出される**マンノプロテイン(mannoproteins)・多糖類(polysaccharides)**がワイン中に溶出→口当たりが滑らかに。WineMakerMag.com+1
  • 澱が酸素を吸収・消費する還元的な表面を持ち、酸化抑制・保存安定化に寄与。The Australian Wine Research Institute+1
  • タンニンやアントシアニンなどポリフェノールと相互作用し、渋味・収斂味を軽減する効果。Winemakers Research Exchange

2. 樽発酵(Barrel Fermentation)とは?——木の影響+物理変化

樽発酵とは、発酵をタンクではなく木樽内で行う、あるいは発酵後すぐ樽に移して熟成を始める手法で、ワインに特有の香味・構造を付与するために用いられます。rockymountainbarrelcompany.com+1
木樽は次の特徴を持ちます:

  • オーク由来のバニリン、ラクトン、タンニン(特にエラジタンニン)がワインに移行
  • 樽の板隙間・目地からの微量酸素供給(微小酸化)によるタンニン軟化・色安定化
  • 蒸発・揮発損失による濃縮効果

これらの作用が、澱接触による構造変化と組み合わさることで、より「クリーミーで重みのあるスタイル」へと発展します。


3. バトナージュ(Bâtonnage)の真意——澱を撹拌し、作用を最大化

バトナージュは、澱が沈澱した後、長棒(バトン)で撹拌し澱を浮遊・再接触させる技法です。frankfamilyvineyards.com+1
その目的・効果:

  • 澱・ワイン接触時間を増やし、酵母成分の溶解・移行を促す
  • 澱層の厚み・還元リスクの低減(澱が厚くなると硫化物などの欠点発生リスクあり)ウィキペディア+1
  • 樽内での撹拌により微小酸化の均一化・酸素分布改善

実務上は、清酒「シュール・リー」的な白ワイン(例:シャルドネ)で多用されますが、赤ワインでも同様に口当たり・構造改善を目的に用いられます。WineMakerMag.com


4. “クリーミー食感”をもたらす構造変化

◾ マンノプロテイン・多糖類の働き

酵母細胞壁から放出されるマンノプロテイン・β-グルカン等は、ワイン中のタンニンと結合し、唾液タンパク質との結合を妨げることで収斂味・渋味を抑え、滑らかな舌触りを生みます。Winemakers Research Exchange+1

◾ 樽と澱の協働

樽発酵・バトナージュにより、オーク起源の揮発成分(バニリン、トースト香)・微小酸化作用・澱溶出成分が融合。結果として「バター/クリーム」「ナッツ/ブリオッシュ」「オークスパイス」という複雑な香味と厚みが現れます。

◾ 安定性と熟成ポテンシャル

澱接触とバトナージュにより、ワイン中のタンパク・酒石共析成分が安定化され、清澄・濾過時のトラブルを軽減。The Australian Wine Research Institute また、溶出多糖類がタンニン・色素と作用することで熟成耐性を高めるケースも報告されています。Winemakers Research Exchange


5. リスクと管理ポイント

  • 澱が厚く沈降層を形成し、そのまま放置すると還元臭(硫化水素・メルカプタン)やオフフレーバー発生リスクがあります。撹拌・酸素管理が重要。ウィキペディア+1
  • バトナージュ頻度・タイミングにより、酸化・還元バランスが崩れる可能性。撹拌直後の空気導入は過酸化・アセトアルデヒド生成の原因。The Australian Wine Research Institute
  • 樽材料・トースト度・新樽比率・澱の性状(粗澱 vs 微澱)により効果が変動。実務では細澱(fine lees)主体の管理が望まれます。WineMakerMag.com

6. スタイル別プレイブック

目的スタイル実施内容備考
フルボディ白(例:樽発酵シャルドネ)樽発酵+澱接触+月1回バトナージュ乳製品香+厚み+熟成耐性
精緻な白(例:白ブルゴーニュ)澱接触のみ/軽撹拌フレッシュ感と複雑性の両立
赤ワイン(例:ピノ・ノワール/メルロー)樽熟成中に細澱+月1–2回撹拌滑らかさ確保+タンニン軽減

【樽発酵×バトナージュ】を感じるワイン

項目詳細
産地アメリカ、カリフォルニア州 ナパ・ヴァレー
ブドウ品種シャルドネ
製法樽発酵・樽熟成、バトナージュ(月2回)、マロラクティック発酵 100%
Amazon商品ページナパ・ハイランズ シャルドネ

おすすめポイント

カリフォルニアのナパ・ヴァレーという、樽熟成シャルドネの銘醸地から選んだ一本です。樽発酵と樽熟成を組み合わせ、さらにマロラクティック発酵(MLF)を100%行っている点が最大の特徴です。

•リッチでクリーミー: MLFにより酸味がまろやかになり、月2回のバトナージュによる澱の旨味が加わることで、非常にリッチで厚みのあるクリーミーな口当たりを実現しています。

•複雑な風味: 洋ナシや完熟リンゴの爽やかなアロマに加え、樽からくるバニラやナッツ、バターの風味が層をなし、口全体に広がる複雑な味わいが楽しめます。

•王道スタイル: 樽熟成シャルドネの王道ともいえるスタイルで、ブログのテーマを深く理解するのに最適な、飲みごたえのあるワインです。


まとめ

「樽発酵×バトナージュ」は、澱の化学的・物理的作用と木樽構造・酸化還元環境を融合させ、香味・口当たり・安定性の三位一体を目指す醸造技法です。効果を引き出すためには、澱の管理・撹拌タイミング・樽設計が不可欠。ソムリエ試験対策としても、「澱→マンノプロテイン→滑らか」「撹拌=バトナージュ=オーク+微小酸化」という流れを理解しておくと実践的です。


参考文献

🔮 次回予告

「マイクロ・オキシジェネーション:酸素がつくる“なめらかさ”と色の安定」

ワイン熟成に欠かせない“酸素”。
しかし、その量とタイミングを誤ると、酸化・劣化の引き金にもなります。
次回は、樽やタンクを問わず応用されるマイクロ・オキシジェネーション(微小酸化)の原理と、
それがどのようにして赤ワインの色調・タンニン・口当たり
に影響を与えるのかを科学的に解き明かします。

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